Snow Man『滝沢歌舞伎ZERO2020 The Movie』の感想 

 

 

YouTube で動画を観ていたら突然割り込んでくるトレーラー。数十人の上裸の男たちが向かい合い、激しい息遣いを漏らす。かと思ったら雄叫びを上げ始めた。

 

なんだなんだ急に…と、驚くことなかれ。Snow Manが主演を務める滝沢歌舞伎ZERO2020 The Movieのトレーラーである。

 

 

いやっ、まあネタバレになるからねぇ……

 

でも

肌色が全面のシーンは結構ある、かもしれない。

 

 

彼にしては珍しく匂わせるような発言が、予告開始一秒で早々に回収。前々から思っていたことだが、Snow Man、彼らの辞書に「匂わせ」や「焦らし」という言葉は載っていない。根本的に匂わせの才能がない。

 

まあともかく、大きな事故もなく撮影が終わり、誰ひとり欠けることなく無事に公開されたね。本当によかった。

 

春に滝沢歌舞伎の映画化が決定、2020年冬に公開。というニュース記事を最初に読んだ時は

 

「て、おいおーい。2021年と間違えてますがなァ、さすがに年内公開、ておいおーいっ」

と電車の中で内心ツッコんだのが懐かしい。そしてそれが事実だと知った時の衝撃たるや。

スタートからゴールまでが早すぎるて。

と一瞬悟り顔になったが、家に帰るまでが遠足なのであれば、制作決定した時から人々の記憶から消え去るまでが映画なのだ。

 

つまり、この映画は今も走り続けている。

走り続けてこの映画、公開から2週間足らずで興行収入10億円突破したらしい。

スノメン兄さんたちを好きで見ていると、つい日本が戦後最悪の不景気ってマジ?と言いたくなってしまう。オリコンでもミリオンいったしね(やったね)。まあ実際景気は悪いのだけれども、みんな贅沢ができない分、アイドルにかける一人あたりの単価は上がっているのかもしれない。口紅効果ならぬ、Snow Man効果もあるのかも。

とにかく兄さんたちの周りが景気が良くてなにより。

 

そんなニッポンの景気を回すスノ担の端くれである私も、先日時間ができたので映画館で滝沢歌舞伎を観てきた。

 

平日の昼間だというのに結構な人が入っており、着席する前から映画館では初めて味わう連帯感に一人感動していた。

ここは新橋演舞場でも、兄さんたちのコンサート会場でもない真っ昼間の映画館の隅っこ。スクリーン1なのに。ここにいる人は、みんなSnow Manが好きなのだ。言葉を交わすことはないし、目を合わせることもないけれど、同じ人が好きで、同じ生活圏にいて、同じ物を同じ時に見る。今後もどこかですれ違うかもしれない。これって結構すごくない?いやすごい。スッゴイゴイゴ(以下略) 

 

とまあ、鑑賞前にも関わらず、既に少年たちを履修していた私には変に余裕があった。そう何度も驚かされないぞ。カオス上等かかってこい、という気持ちでね、臨んだのです。「滝沢歌舞伎ZERO2020 The Movie」に。

その結果、予想は簡単に裏切られましたが。

 

 

誤解を恐れずに言えば、「誰にでもオススメできるエンタメ作品」だった。

 

ジャニーズを知らない人に。

Snow Manに興味がない人に。

時代劇を観ないという人に。

 

そのような人々にとって、3000円は少々高い値段設定ではあるだろうが、エンタメを愛する全ての人に、ぜひ一度映画館で(ここが大事)観てほしい。

 

私は事前情報を一切入れずに観に行ったため知らなかったが、一つ一つの演目が独立しているらしく、予備知識がなくてもショーを観ているような感覚で楽しめるようになっていた。

本編後半の時代劇シーンは、個性豊かなキャラクターと日光江戸村の本格的なセットに彩られ、前半の総じてクオリティーの高い演目とのギャップがまた面白い。まさに舞台とも映画とも説明のつかない新体験。伝統と革新のハイブリッドエンターテイメントを、高画質大画面で観ることができる。

それに、「江戸のヒーロー鼠小僧がいなくなった!→それを良いことに悪者たちが江戸の街で暴れまわっている……→鼠小僧がいなくても、俺たちで江戸を守らなければ!」というわかりやすいストーリー展開もよかった。これは滝沢歌舞伎をよく知らない人でも「そーいうもんだ」と思って設定に入り込めると思う。

未来都市回収は?男の子はそっから?とかは思ったが何も言わない(言うてるやん)。これ以上を求めたら8,000円は払わないといけないので。申し訳ない。

 

 

備忘録程度に印象に残ったシーンや人に関する感想を好き勝手に書いていこうと思う。

まだ数枚ムビチケが手元にあるので気が向いたら追記します。

 

 

 


○Maybe


私にはダンスの知識がない。それでも、たしかにラウールは魂で踊っているのだと、初めて考える前に理解した。

迸るパッションに目が離せず、気づいた時には、つい舞台の中心を世界の中心だと錯覚した。

踊ってる間、この末恐ろしい17歳は、何を考えているのだろう。知りたいようで知りたくない。作家とカリスマの頭の中身がわかってしまうほど、面白くないことなんてない気がする。

 

話はそれるが、私は結構この3人組が好きだと気づいた。

佐久間くんが好きな私は、彼が今回不参加というのは残念だったけれど、あまりセットにされることがないこのトリオは案外綺麗にまとまってみせる。
グループ内入所最長歴と最短歴、同期コンビ、最年少と最年長、元末っ子と現末っ子。バラエティ、クイズ、モデル。リンクしつつも重ならない3人。

個人的にこの3人の関係性には端と端が繋がるイメージがあり、この中の誰か1人について話す時、不思議と残りのどちらかを連想させるなかなか面白いトリオだと思う。Snow Manの周りを縁取る3人、という感じ。

 

最長歴の2人が紡ぐ歌詞を、最年少が踊りで魅せる。

 

「Maybe もう二度と恋はできない」なんて
悲しみを味わった胸 知らず臆病に
誰かと触れ合う時も 求め合う時にも
冷静な自分を 隠し持つようになってしまったのは いつから…?

 

この歌詞を深澤辰哉に歌わせる業の深さよ。

実際、深澤辰哉は第一印象でわかるほど典型的なザ・クールな人、ではない。でも恐ろしいほどに周りが見えている人だと思う。ひょうきんさの裏で、どこか冷めている気がする。冷静さを隠し持つ、とはまさに彼のことではないのか。

 

どこかでずっと願っていた想いを
君が叶えてくれたのか 必然の奇跡か

I'm in love 思い出す 刺激と感覚
I'm in love 遠ざけては 追いかけていたもの
I'm in love 溢れだす

「I just wanna stay with you…」

 

阿部深澤の歌う失った恋の歌。

もちろん良すぎるのだけど、ここの歌詞に関してだけはなんとなく、同期という関係、デビューという夢、ファンとの関係にリンクさせて聞いてしまった。

 

先にデビューしていく仲間たち。

違う世界に去っていった背中。

この2人はそれをいつも同じ場所から、同じ思いで見送ってきたはずだ。そんな2人にこの歌詞を歌わせるなんて、毎度のことながらグッときてしまう。同期コンビの歌うMaybeは本当に良い。いつ辞めてもおかしくないほどの下積み最長歴を更新していた2人が歌うから、なお良い。

同じグループで、同じ景色をこれからも同じ場所から見るために、一緒にいてほしい。

 

 

 

 

○舞

 

男と女の舞、これには美しさのあまり目が覚めた。

それまでが眠かったというわけではないけど。思わず席に座り直したのを覚えている。

 

佐久間大介演じる娘と渡辺翔太演じる男の戯れは、思わずマスクの下で微笑んでしまうほどに可愛らしい。

一目でこの娘は紫の着物(高位?)の男が好きで仕方ないのだ、とわかる眼差し。娘が男の目を後ろからふさぎ、「だーれだ?」を仕掛けてみせる場面に、2人だけの歴史を感じたのは私だけだろうか。2人の間でそれが何度も繰り返されてきたような、お互いがお互いだとわかる合図のような気がしてならない。娘がこんな真似をする相手はこの男しかいないし、それは男も同様で、そんなことを自分にやってみせるのはこの娘しかいないのだろう。娘が男を信じ切って、自分の全てを委ねてしまっている様子が可愛い。

 

この時代背景に明るくない私が個人的に受け取った印象だが、佐久間渡辺の2人が見せる舞が優美で暖かかったのに対し、阿部目黒の舞はどこか冷たくて熱い。あんまり美しいのでポカンとしばらく見惚れたあと、じわじわとやってくる物悲しさ。

 

前帯から遊女(阿部)だとわかる女と、今回突如現れた若き美男子(目黒蓮)の逢瀬。目黒蓮演じるこの美男子は客なのか。それとも女が身売りをする前からの関係なのか。

私的には、この2人が同じ長屋で育った幼なじみとかだったらたまらないな、と思う。家のために身を売る女と、止めたくて仕方ないが自分に彼女とその家族を養えるはずもなく、歯噛みする思いで見送る男、とか。客としてきた男が一目惚れするのもいい。

どうしても想像を膨らませてしまうな。

どちらにせよ、2人の哀しさが見えるかのような舞だ。

自分のことを気にかける素振りを見せてはくれるのに、一歩引いた様子の遊女に対し、痺れを切らすかのように引き寄せた口づけが美しかった。

口づけの後、2人はどんな言葉を交わしたのか。男はなにを思って遊女の手を引いたのだろう。


ちなみにいつかくるよねと気楽に構えていたラブシーンが、まさかメンバー同士によるものだとは思っていなかった。めめあべ厨の私は気持ちが迷子になりオロオロしてしまった。

 

 

 

○花鳥風月

 

誰がなんと言おうと、深澤辰哉が優勝している。

 

突然明るい場所に引きずり込まれ、目が眩んだ。

かと思えば、華やかなセットに囲まれた中、藍色の衣装に身を包んだ9人がいた。その空間で、最も暗い色を身に纏っているはずなのに、全員の輝きようといったら。

ヒーローだ。花鳥風月のSnow Manはヒーローみたいだった。あの「満を辞しての登場」感、あの神々しさはアベンジャーズさながらの無敵さに満ち、全員が今にも世界を救ってくれそうだった。

そんな9人それぞれのビジュアルが光を放っていた演目「花鳥風月」。選ばれたのは、深澤でした。

フロントでラウールとシンメに置かれた深澤辰哉に、目も心も奪われた。ひたすらに美しかった。

和のテイストがとことん似合う男だと再認識。

日本の美しい情景が背後に見えるようだった。散りゆく花の儚さ、空を舞う自由さ、移ろいゆく季節への憂い、また巡る力強さの全てをたった1人で表してしまっているようにさえ思えた。

私にとっては、どんな粗もかき消すほどにこの「花鳥風月」の世界観に彼が馴染んでいるように感じられ、ここまで洗練された深澤辰哉をみて、彼のまた新しく知らなかった一面を垣間見たような感覚だった。元より断トツで掴めない人だけれど、やはり私はまだまだ深澤辰哉のことを知らない、と思い知らされた気分。感動した。拍手。

 

あと阿部亮平の表情も非常に素晴らしかったね。

 

夢幻に乱れ踊る 花鳥風月

 

この歌詞についた手を斜め上に掲げどこか遠くを見る振り付け。

見間違いかな。みんなが切なそうだったり、遠くにいる存在を想うような表情の中、彼だけは口角を上げているように私には見えました。

眩しそうに、憂いは湛えながらも、微笑んでいると。

 

周りと違う表情をしていたから目を惹いた、というのはもちろんあるだろうが、華やかかつ勢いのあるまるで滝沢歌舞伎全体に新風を送り込むようなこの曲に、阿部ちゃんの澄んだ表情がとても合っているように思って。

なんだろう、もちろん答えなんてなくて、受取手によるとは思うのだけど、つい「阿部ちゃん、正解!」と花丸をあげたくなってしまうような、そんな表情だったのです。

 

滝沢歌舞伎の中でも群を抜いて、とっってもお気に入りの演目となりました。

「舞」からの「花鳥風月」を観るためだけにでも、私は何度でも劇場に足を運びますとも。

 

 

 

○黒影組

 

世間よ、向井康二の演技に刮目せよ。

 

劇中、最も謎に包まれた男だったであろう官兵衛。黒影組の頭であり、滝沢歌舞伎ZEROにおける最強の悪役。彼は人を、斬る。いくら大義を抱えようと人道にもとる行為であることは間違いない。彼が斬っているのは、なんの罪もない善良な人々も含まれるのだ。

私は官兵衛にどんな過去があろうとそれを肯定しないが、目を離せない魅力的な悪役であることはわかる。

官兵衛は言葉を尽くさない。でも人は彼についてくる。取り憑かれたように斬った人の数を数える半兵衛や、妹小春を亡くした以蔵のように。彼に導かれるのは、過去に江戸の町に何かを奪われたであろう人だ。「江戸がこんな町でなければ、お前の妹も死ぬことはなかった。」落ち着いた声音、見透かすような視線は他人の傷口へ正確に憎しみを植えつける。

 

さらに組の悪行を世直しだと、官兵衛は言う。

 

淡々とした口調で、まるでこれは誰かがやらなければならない正当な行いであるかのように。

肩を揺さぶられ説得されるより、甘い言葉で誘惑されるより、「この人は全てわかっている」と確信させられてしまう。

孤独な人、絶望した人を官兵衛は誘い込む。

以蔵のように心根が優しい男でさえ、官兵衛についていけば「自分や小春のような子供を減らせる」と思って仲間に加わったのだろう。

 

本当は何がしたいのか、どうしてお金がほしいのか、それだけならなぜ無関係な人々の命まで奪うのか。わからない、そんな官兵衛の底知れぬ雰囲気を、図るような目つき、ゆったりとした動き、声のトーンで表してくるから、向井康二は凄い。

普段の彼は、キョロキョロとよく動く目が可愛いし、身振り手振りが大きい。基本的にジッとしていない。可愛い(挟まる私情)。

 

それが、官兵衛である時は目線をあまり動かさないどころか瞬きすらしないし、アクションシーン以外の手や体の動きは、ゆっくりかつ必要最低限だ。嘘をつく時、人の目は泳ぎ、身体のどこかを動かさずにはいられない。これらを封じた官兵衛からは人間らしさが欠如しており、感情が読み取れない。

 

映画を観終わったあと、やっぱり私はいつか向井康二の芝居論を聞いてみたいと思った。

自らが演じる人物がどういう人間なのか、台詞にどんな感情が乗っているのか、突き詰めて考えるタイプなの? いくつかのパターンを用意していって監督と意見のすり合わせをしたりするのですか。そんなことをしなくても、誰より人の心の機微に敏感な人だから、自然と空気を読んで物語の雰囲気を掴み、求められている演技に応えているのですか。

気になる。

 

あと、強くて優しい以蔵が私は好きです。黒影組が目をつけるほどの江戸を憎む理由があってもなお、最後は江戸を守る側についた以蔵。自分だけの物差しを持っていて、何があろうとそれ以外で善悪を判断しようとしない。黒影組に入った経緯が気になりすぎるけど、小春のエピソードはきっとこれからも語られることはないんだろうな。小春はきっと、お金や人々の優しさ、弱きを助ける国の制度があれば、助かっていたのだろう。救える命が救われない世の中を変えたい以蔵。どんな風に官兵衛と出会ったの。気になる。

 

そしてもう一人。目黒蓮演じる半兵衛のことがわからない。考えれば考えるほど困惑する。だって人を斬るなら1人でも斬れるはずだ。むしろ誰かと行動を共にしない方が好きなだけ人を斬れるし、手に入れた金品は一人で丸ごといただけるはずなのに。なぜ、彼は黒影組に?官兵衛と並んで黒影組のトップを担っているということならまだわかる。

しかし劇中、官兵衛が指揮をとるシーンがあった。

それに従う半兵衛。

半兵衛と官兵衛の力関係は明らかだ。

周りに合わせない傍若無人っぷりと自分の腕に相当な自信を持っている様子の半兵衛が、官兵衛の下につく理由は何か。兄弟説もあるみたいだが、それは個人的に安直で面白くない。画面端の人物にこそエピソードが欲しい。今のところ、黒影組の3人には語るに値する過去があるに違いないと私のフィクションオタクの血が騒いでいる。フガフガと嗅ぎ取っている。

 

だめだ、気になりすぎる。というわけで、シナリオブックの発売求む。ト書きや台詞から、彼らの目線から見た滝沢歌舞伎の世界を追体験させてくれ。

 

 

最後に。コロナ禍で生のエンタメを欲して干からびていた私たちに、滝沢歌舞伎をおくるべく映画化という前例のない挑戦をしてくださったことに感謝します。

 

めっちゃくっちゃ楽しかった……!!!