笑いってチューニングが必要だ。

 

 

「気持ち悪っ」

 

 

中学の頃、吹奏楽部に入っていた私が地区大会でとある学校の演奏を聴いている時。隣に座っていた友人が呟いた一言である。


私にはなんのことだかさっぱりだった。

特に体調が悪そうでもなかったので、気にも留めずにその学校の演奏を聴いていたが、彼女は休憩に入ると思い出したかのように「さっきの学校、ピッチやばかったくない?」と話しかけてきた。

 

 

……ピッチ。はあ、音の高さだっけ。たしかに顧問の先生が合奏の時によく言ってる単語ではある。でも何の話?

 


と意味がわからず微妙な顔をしていたであろう私をよそに、後ろのサックス女子が「ねーー」と相槌を打って会話に加わってくる。

 

 

「わんわんなってたよね」

「ほんまにチューニングしたんかな」

 

 

 

そこで私はやっと、「気持ち悪くなかった」自分の感覚が不正解だったことに気づいた。

 

音感ないし、ピッチとかよくわからない。と正直に私が白状すると、「あんたは打楽器だし、普段から気にしてないと気づかないかもね」と何てことなさそうにその話題は終了したが、私は結構驚愕していた。

 

だって他の子が顔をしかめて違和感を覚えた演奏を、私を含む数人は何も感じず、最初から最後までのんきに聴いていたという事実よ。

同じものを聴いているのに、ここまで感じ方が違うのかということ。

 

それに、これに関しては「感じ方は人それぞれ」という話ではない。

 


実際にピッチは合っていなかった。

美しいハーモニーとは言えなかった。

音が狂っていた。

 


ただ私が「気づいていない」だけだった。

 

 

気持ち悪くない音楽をするには、その都度

楽器を正しい音程に合わせるチューニングという行為が必要だ。

 

 

 

 

 

 

 

とまあまあ前置きが長くなったが

 

 

これは、先日私に

 

笑いにもチューニングが必要だったんだなあ

 

と、気づかせてくれたチューニングの済んでいないお笑いへの「気持ち悪っ」を書き殴ったブログである。

 

 

 

 

話のきっかけは友人からのLINE。

 

「ふかこじが燃えてる」。

 

 

今思えば言葉足らずにも程がある報告をしてくれたものである。報告を真に受けた私は「2人は一体何を……?」と恐る恐るその番組を視聴した。

 

 

 

 

…………

 

がしかし

 

あれ。どうやら燃えてる原因は、ふっかさんと康二くん2人のせいではなさそう?と薄々察したのは3時のヒロインの出ているコーナーが始まってからだった。

 

 

「破壊力のある顔」

「映画のアバターに似ている」

「あなたは鼻モゲラ、と呼ばれていますがどういう意味?」

 

 

記者会見という設定で外国人記者が福田さんに向かって次々に失礼な質問を重ねていく。それに対して福田さんがキレよくツッコむ。

3時のヒロインじゃなかったら、福田さんじゃなかったら見るに耐えなかったに違いない。

 

彼女のツッコミが、間が、ワードセンスが、記者をイジるタイミングが、すべてが素晴らしかったと思う。

 

3時のヒロインは、正統派だ。

かなでちゃんとゆめっちの強烈な個性だけに絶対に依存しない。それらを上回るネタで勝負する。

芸人界に彗星の如く現れた3人組。

 

3時のヒロインの魅力はたくさんあるが、武器はやはり福田さんの冴え渡った「ネタ」だろう。

下積みの地下アイドル時代、キャパオーバーで泣きながらコントの台本、ダンスの振り付け、曲の編集と全て1人で担ってきた彼女。顔芸だの自虐ネタだの、それだけで上がってきた人じゃない。センターに立つだけの理由がそこにある。

 

3時のヒロインを見ていると、他人が作った美しさの基準に従って自分を卑下する必要なんてないし、外見は私たちの個性だと

誰だって輝けるし、輝いてる人は周りに勇気と笑顔を与える存在なのだと教えてくれているみたいだ。

個性は魅力なんだから、隠さずに見せていこうよ。と発信してくれるグループだ。その姿はまさに明るく勇敢なヒロインそのもの。かなでちゃんのお腹には夢と魅力と彼女の覚悟が詰まっているのだ。

 

 

元よりこの番組、今とても勢いがあり未来ある若きディレクター達を育成する、というコンセプトらしいが

3時のヒロインのVTRを観ながら、福田さんは流石だけれど、3人の良さがあまり出てなくない?担当ディレクターはどこに工夫をこらしたんだろう?と思っていると

 

 

 

江頭2:50「もしかしてブスとかデブとか一回も使わなかったよな」

担当D「そこに気づいてくれたのめっちゃ嬉しいです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこかい。

 

 

あなたの工夫した点はそこかい。

誰に教わったお笑いだよ。教わったんだとしたらそいつが悪いよ。

 

呆れを通り越して笑う。ここ1番という勝負どころの特番で、あなたは“人の外見をどれだけ気の利いた言葉で笑い者にするか”に力を注いだのだな。まあ注いだだけのことはあると思う。

 

 

とにかく私が

「あーこの番組、こういう雰囲気で進むんだ〜」

 

と理解し始めた時だ。

 

ついにSnow Manが出ているVTRが始まった。

 

始まってすぐに私の口からは「何だこれ」が溢れた。

 

 

 

何も知らされていないふっかさんと康二くんが椅子に座らされ

説明もそこそこにVTRが流される。

題して「なるほど、、ザ・イケメン」。

VTR内では「近頃、“イケメン”というワードの乱用が目立つ。」とし、様々なメディアで○○イケメン称された男性がランキング付けされ、登場する。

その時の2人のリアクションを見る

 

 

という内容だった。

 

 

 

 

 

えっと、これは、本当に令和3年に放送されたバラエティ番組?

吹奏楽部時代、他校のピッチの悪さに顔をしかめた同級生と同様に、私も顔をしかめた。気持ち悪かった。

 

悪趣味で、卑しく、人を馬鹿にした内容だ。

 

よく知らない他人の外見を勝手な物差しで測り

それを若手アイドルにみせ

その反応をカメラにおさめる。

 

これで笑いが取れたら、なんて楽だろう。

 

 

 

さらに

 

担当D「イケメンの基準がわからないんですけど

メンバーの目黒さんと比べて…?」

 

 

一般人を嘲笑するだけじゃ飽き足らず

出演者の外見まで貶めるか。

てかイケメンの基準わからんやつがこの企画するなよ。そもそもないわイケメンの基準とか。

 

私は、内面以上の外見に魅力はないと思う。

 

だから、2人のことをよく知りもしない人に、わざわざメンバー同士で見た目を競わせるような不躾な質問を投げてもいいと思われたことが酷く哀しかった。

初っ端からその場にいない人々を一方的に殴るような内容をぶつけられた2人が、咄嗟に自分たちを殴るように仕向けた状況が苦しかった。

 

私にとってとても大事な人たちが、全く大事にされていないと感じた。

 

それでも、こんなにわかりやすい悪意の透けた企画を前に「(見た目なんて)好みだ」「人それぞれ、オンリーワンだ」と最後まで乗らなかった2人は最高にクールだった。

 

 

 

向井「今俺ってわからんやろ」

 

椅子をくるくると回しながらそう言った康二くんの言葉が物語る、この企画趣旨の異常さ。

出演者に、出ることを恥ずかしく思わせるテレビって何だよ。

観てる視聴者が気持ち悪く思うテレビって何だよ。

 

ちっとも笑えないし、ダサかった。

好きなグループのメンバーが出ているということで贔屓目に見ても面白くないし

 

先ほども言ったが

「感じ方は人それぞれ」

というわけにはいかない話といける話がある。

これは絶対に前者だから。

 

これは江頭2:50というベテランゲストを迎えての特番というだけでなく、ディレクターにスポットが当たる番組ということで

そこに選ばれたディレクターの皆さんは相当に気合を入れて臨まれたのではないかと思う。

 

その気合を入れられたであろう内容がこれか。

 

何故そう思ったのかわからないが、「馬鹿にしてもいい」と自分が勝手に判断した人を公の場でとことん嘲笑い、出演者までも貶める内容を「面白い!」と自信満々に見せる人が、フジテレビという(あ、言っちゃった)誰もが知るキー局内で“未来ある若きディレクター”の位置にあるという事実が絶望的。世紀末ですか。

もう第1話が面白くないので中身全部読まんでもわかるやん、て感じ。同局内の雰囲気もお察し。

 

たしか、最近あった目黒蓮がかなでちゃんとデートするコントも同局だったよな。美人とブスが入れ替わるパラレルワールドの話?あのコントもなかなかキツかったけれど。

「ブス」は採用面接さえ受けられず、「美人」は見た目採用。「美人」は「イケメン」からも声をかけられ、「ブス」は見向きもされない。

登場人物全員に失礼な話だな。ああいうのが面白いって正気か。現実世界でも身近な人をめちゃくちゃ傷つけてそうで心配になるわほんとに。

 

 

 

 

 

 

生まれ持ったものを貶す笑い

上の人間に媚びる笑い

立場の弱い者に圧をかける笑い

 

 

日本のテレビには根強く残るそれらが

徐々に世間の日常から消えていっている様を

気づかない、何も思わない人にはわからないだろう。

 

鬼滅の刃や呪術廻戦、進撃の巨人

近年非オタク層が熱狂し大ヒットした漫画に

そんな笑いが含まれていないことに気づかないなら

 

ぺこぱやマヂカルラブリー

最近賞レースで成績を残した後、一気に世間の人気に火がついたコンビが

周りを卑下する笑いの真逆をいっている理由を考えないなら

 

それらの「人気の理由」をただのトレンドだと思っているのなら

 

大間違いだ。

 

見ればわかる。ただの流行りじゃない。

みんなの「面白い」がチューニングされた結果

取捨選択された「笑い」なんだよ。

 

この番組のタイトルの下に書かれた

“読み方決めるのって古くない?”が皮肉。

新しい番組にしたかったのだろう、という気持ちはわかったけど

 

いやいや。どう考えても読み方云々より

“人の見た目で笑いとるのって古くない?”だろ。

 

 

このVTRを担当したディレクターらはきっと自分たちが世間一般の「面白い」とズレていることにも、チューニングできてないことにも気づかない。

だから「気持ち悪くない」側の人間なのだろう。

ピッチの乱れた演奏を聴いても気持ち良く座っていられたあの頃の私のように。

 

 

そしてダメ押しのラストだ。

 

想像もしなかっただろう企画内容に尻込みするふっかさんと康二くんに、ディレクターがかけた言葉がこれ。

 

担当D「この番組、今後も続けていきたいんですけど、じゃあお二人はちょっと今回限りで……」

 

 

自分の手は汚さず、若手アイドルに丸投げ。

そして最後には「そんなに嫌なら出さないけど?」

 

笑えないだろうこれは。酷すぎる。

炎上狙い以外何をしたくて言った言葉なのか私にはわかりかねる。

 

 

まあとにかくこの番組

 

ルッキズムパワハラ同調圧力

 

現代で時代遅れと批判、揶揄されるワード全てを盛り込んだような内容だった。トッピング全部乗せして本来の味がわからなくなるくらいの特大ボリュームだった。

 

こんな欲張りな番組、最近見ない。

まさに、“未来ある若手ディレクター”による新しい番組といえる。未来はないだろうが。

 

 

 

最後に。

 

愛されて欲しいんで
かっこよくて、かわいくて
オモシロイもやるんですよ
だって国民的スターになるんでしょ

 

 

オモシロクなかった。以上。